慶應の一貫校では、高校3年間の先に大学受験がありません。その代わりにあるのが、内部進学の学部選択です。
重松さんは、法学部に行けるだけの成績を持っていました。法学部は人気で、周りの評判もよかった。それでも経済学部を選んだのは、塾高で受けた「法律入門」の授業が「絶望的に面白くなかった」からです。
重松さんの在学当時、塾高には大学の授業の入門版を高校の先生が教える講座がありました。法律も、経済も、大学の数学も。受けてみて、合わないとわかった。それも一つの成果です。
連載第6回は、文理選択から学部決定までの流れと、高校で受けた大学の入門授業の話を聞きます。なお、進学の仕組みに関する部分は、重松さんが在学した当時の本人の認識です。慶應義塾高校の公式Q&Aでは、大学への推薦は本人の希望を尊重しながら、在学中3年間の成績の総合評価、適性、出席状況、授業態度などを考慮して決定すると説明されています。仕組みは年度によって変わるため、最新の情報は学校の公式資料で確認してください。
話し手:重松さん(仮名) 聞き手:インタビュアー / PenBridge
高2で文理を選び、高3は文理別のクラス
インタビュアー: 塾高の文理選択は、いつ決めるんですか?
重松さん: 高2で選んで、高3の1年間が文系、理系のクラスになります。
インタビュアー: 授業はクラス全員で受ける形ではなくて、大学のような選択制だと聞きました。
重松さん: そうですね。選択する授業がけっこうあります。理系なら物理と化学を選ぶのか、地学を選ぶのか、いろいろな選択肢があって考える必要がありました。文系も、けっこう選びます。人によってかなり違いますね。
学部は、3年間の成績をもとに決まる
インタビュアー: 学部はどうやって決まるんですか? 僕のいたニューヨーク学院では、GPAに英検のポイント、部活などの課外活動のポイントを合計した評価点の高い順に、行きたい学部を選べました。
重松さん: 塾高は、僕らの認識では成績です。部活動の評価はなかった記憶ですね。週7で練習しても関係ない。成績を取ってください、という世界です。
インタビュアー: 重松さんは、どう成績を取りに行ったんですか?
重松さん: 文系に絞って、文系ならどこの学部でも行けるような成績を取ろうと思っていました。理系は切って、そこに向けた履修を組んでいました。
高校で受けた「法律入門」が、絶望的に面白くなかった
インタビュアー: 文系ならどこでも行ける成績で、経済学部を選んだのはどうしてですか?
重松さん: 法学部は人気があって、いいという話も聞いていて、行ける成績だったので見ていたんです。ただ、塾高で法律入門の授業を取っていて。
インタビュアー: 大学の授業の入門版を、高校でやってくれるんですね。
重松さん: 高校の先生がやってくれます。大学の先生を招くわけではなくて、塾高の先生が教える。その法律入門が、絶望的に面白くなかったんです(笑)。これをやるのか、と。法律はマジで面白くなくてびっくりして、経済学部にしました。
インタビュアー: 経済の授業もあったんですか?
重松さん: ありました。経済の入門も取っていました。あと、大学の各学部の教授が塾高に来て説明する学部説明会も、あったような記憶があります。すぐそこなので。
大学数学の先取りで、大学1年を乗り切った
インタビュアー: 他に取っていた授業はありますか?
重松さん: 大学範囲の数学を教える授業があって、それも取っていました。紹介レベルではなくて、高校の先生がしっかりやってくれる。微積もやりますし、線形代数は行列の対角化くらいまでやりました。
インタビュアー: 文系選択なのに。
重松さん: 取ろうと思えば取れるんです。僕はその貯金で、大学1年の数学を全部乗り越えています。経済学部のA方式は数学があるので。
インタビュアー: A方式とB方式の違いは?
重松さん: Aは数学をやって、Bは数学をやらない方式です。Bでも取ろうと思えば数学は取れますけど、必修ではない。僕はAなので、高校での先取りが効きました。
PenBridge編集部より
内部進学は「受験がないから楽」というより、受験の代わりに別のものが問われる仕組みだ、というのが重松さんの話から受ける印象です。本人の認識では、塾高の学部選択は3年間の成績が中心で、部活動の実績が直接加点される仕組みではありませんでした。公式Q&Aが挙げる適性や出席状況、授業態度などの要素は、本人の口からは出てきていません。その認識のもとで、重松さんは文系に絞り、どこでも行ける成績を取りに行っています。
目を引くのは、学部を決めた材料です。偏差値でも人気でもなく、高校で実際に受けた法律の授業がつまらなかった、という体験でした。塾高で大学の入門授業を受けられたことは、重松さんの学部選びに直接効いています。慶應義塾高校の公式Q&Aでも、各学部の説明会や見学会、模擬講義の機会が年に何回かあると説明されています。入ってから合わないとわかる前に、入る前に試せる。法学部に行ける成績を持ちながら経済学部を選んだ判断は、この経験から生まれています。
大学数学の先取りも同じ構造です。受験勉強に使うはずだった時間で、大学1年の内容を先に済ませてしまう。受験がない高校3年間は、空白ではなく、大学以降に効く投資の時間になりえます。
保護者の立場で押さえておきたいのは、高2で文理を選び、高3は文理別のクラスになる、という時間軸です。そこから逆算すると、中学で教科の基礎を固め、高1までに自分の向き不向きを試しておくことの意味が見えてきます。
