慶應義塾大学SFCは、「分野横断」や「問題発見・問題解決」を掲げるキャンパスとして知られています。
しかし、大学案内の言葉だけでは、実際に学生がどのようなことをしているのか、なかなか想像しにくいかもしれません。
SFCでサステナビリティを学ぶ小野田さん(仮名)の周囲では、体育会の活動をSDGsの視点で整理するプロジェクトや、再生プラスチックで応援用のメガホンを作る試みが進んでいました。
寮生が仲間とキッチンカーを始め、キャンパスで販売し、参加した後輩が次の運営者になっていく。研究室に長く滞在し、寮を生活の拠点にしながら、研究に没頭する学生もいる。
授業で知識を得て終わるのではなく、身近な問題をプロジェクトにし、人を巻き込みながら動かしていく。
今回は、小野田さんに、SFCでアイデアが行動へ変わっていく過程と、寮が果たしていた役割を聞きました。
話し手:小野田さん(仮名) 聞き手:インタビュアー / PenBridge
体育会での経験を、研究テーマに変える
インタビュアー: 小野田さんの研究室には、体育会の学生も多いんですよね。
小野田さん: 多いですね。自分の研究室はサステナビリティを扱っているんですが、体育会に関する活動をするチームもできていました。
野球部の主将をしていた人が参加していたこともあります。
インタビュアー: 体育会とサステナビリティは、どのようにつながるんですか?
小野田さん: 例えば、企業が出しているSDGsレポートのようなものを、体育会版として作る取り組みがあります。
体育会の活動が、環境や地域、組織運営にどのような影響を与えているかを整理して、改善につなげていくものです。
インタビュアー: スポーツの結果を出すこととは違う活動ですね。
小野田さん: そうですね。
ほかには、野球の応援で使うメガホンを再生プラスチックで作る試みもありました。まだ試験的な段階でしたが、自分たちが普段使っているものを題材にして、環境への負荷を考えていくんです。
単位を取ることと、本当にやりたいことは両立する
インタビュアー: 体育会の学生は、練習もある中で研究室の活動をするのは大変そうです。
小野田さん: もちろん、単位を取らないといけないという現実的な面はあると思います。
研究室の先生が体育会の活動に理解があって、競技との両立がしやすいという理由で入る人もいます。
ただ、その入り口が何であっても、自分の競技経験を研究につなげられるのは面白いと思います。
インタビュアー: スポーツをやってきたことが、大学では研究の材料になる。
小野田さん: そうですね。
競技を数学的に分析する人もいますし、組織運営やサステナビリティという視点で考える人もいます。
自分がやってきたことを、そのまま過去の実績にするのではなく、次の問いに変えられるのがSFCの良さだと思います。
寮の仲間と始めたキッチンカーが、キャンパスに来る
インタビュアー: 寮の中から、ビジネスやプロジェクトが始まることもありましたか?
小野田さん: ありました。
寮のメンバーと一緒に、キッチンカーをやっていた学生がいました。寮の近くで場所を借りて活動して、キャンパスにも販売に来ていました。
インタビュアー: 学生が実際に事業として動かしていたんですね。
小野田さん: そうです。学生が運営に関わったり、インターンのような形で参加したりしていました。
そこで経験した人が、次の代表や運営メンバーになっていく。学生の中で活動が引き継がれていくんです。
インタビュアー: 一人のアイデアで終わらず、周囲を巻き込んで続いていく。
小野田さん: そうですね。
寮で普段から話している人同士なので、「一緒にやろう」となりやすいんだと思います。授業で会うだけの関係よりも、動き始めるまでの距離が短いです。
キャンパスと寮が近いから、研究に没頭できる
インタビュアー: キャンパスの近くに住むことは、研究にも影響しますか?
小野田さん: かなりあると思います。
研究室に長い時間いて、寮には寝たり生活したりするために帰る、という人もいました。
家が遠ければ、終電や帰宅時間を考えなければいけません。でも、寮がすぐ近くにあれば、研究したいときに研究を続けられます。
インタビュアー: それだけ研究に時間を使う人もいる。
小野田さん: いますね。そういう生活をしながら、本当に高いレベルの成果を出している人もいました。
全員が同じように暮らす必要はありませんが、やりたいことが見つかった人が、思い切り時間を使える環境だと思います。
下北沢の寮に移って、SFCの共同体の強さに気づいた
インタビュアー: イータヴィレッジを出た後は、下北沢の寮に住んでいるんですよね。
小野田さん: はい。今の寮は慶應が運営しているものではなく、いろいろな大学の学生や、高校生、社会人が住んでいます。
自分は社会人の方と2人部屋です。幅広い年代や経歴の人がいて、すごく面白い環境です。
インタビュアー: SFCの寮とは、かなり違いますか?
小野田さん: 違いますね。
今の寮では、大学も年齢も仕事も違う人と関われます。社会人の方から仕事やインターンについて話を聞けることもあります。
一方で、イータヴィレッジには、「みんなSFCに所属している」という共通点がありました。
インタビュアー: 共通の帰属意識があった。
小野田さん: そうですね。
同じキャンパスに通い、同じような場所で授業を受けて、SFCで何かやろうとしている。その共通の土台を持ったうえで、違う分野や背景の人と関われます。
今の寮も面白いですが、コミュニティとしては、イータヴィレッジの方が自分には合っていたと思います。
二つの寮に住んだから、環境の価値が分かった
インタビュアー: タイプの違う二つの寮に住んだことは、良かったですか?
小野田さん: 良かったと思います。
どちらか一つにしか住んでいなかったら、その環境が当たり前になって、価値に気づかなかったかもしれません。
SFCの寮では、共通の目標や帰属意識を持つ仲間と暮らす良さがありました。今の寮では、自分とはまったく違う人生を歩んでいる人と出会う良さがあります。
両方を知ったことで、SFCの環境がどれだけ特別だったかが分かりました。
PenBridge編集部より
SFCの魅力は、履修できる授業の幅広さだけではありません。
体育会での経験が、サステナビリティや組織運営の研究になる。研究室で考えたことが、再生プラスチックを使った製品の試作につながる。寮での会話からキッチンカーが始まり、後輩が運営を引き継いでいく。
アイデアを話せる仲間が近くにいて、実行する場所もある。
その距離の近さが、SFCの大きな特徴です。
大学選びでは、授業内容や偏差値、就職実績に目が向きます。しかし、学生が本当に行動を起こすためには、カリキュラムだけでなく、周囲の人や生活環境も重要です。
授業が終わった後、研究について話す相手がいるか。何かを始めたいとき、一緒に動く仲間がいるか。失敗しても、次の挑戦を応援してくれる空気があるか。
イータヴィレッジは、SFCの学びを生活の時間まで広げる場所でした。
小野田さんは、SFCとは異なる共同体に移ったことで、同じ大学への帰属意識を持つ仲間と暮らす価値を改めて実感しています。
慶應で学ぶ価値は、卒業証書だけにあるのではありません。同じ環境を選んだ仲間と出会い、やりたいことを形にしながら過ごす時間そのものにあるのでしょう。
※入試制度や寮の運用ルールは変更される可能性があるため、公開時には募集年度の公式情報との最終照合が必要です。
