中学受験は、子ども本人が「受験したい」と言い出して始まるものなのでしょうか。
もちろん、そういう家庭もあるかもしれません。しかし実際には、小学生が自分で学校を調べ、塾を選び、将来の進路まで考えて受験に向かうことは簡単ではありません。
今回話を聞いた家谷さん(仮名)は、慶應義塾中等部に進学し、その後、慶應義塾高校へ進みました。中学受験を始めたきっかけについて聞くと、「基本的には親ですね」と話します。
一方で、家谷さんの受験は、単に「親にやらされた」ものでもありませんでした。親が環境を用意し、その中で子ども自身が少しずつ「自分は受験するんだ」と受け止めていく。そこには、中学受験ならではの親子の関わり方がありました。
話し手:家谷さん 聞き手:インタビュアー / PenBridge
きっかけは「基本的には親」
インタビュアー: まず、中学受験をしようと思ったきっかけから聞かせてください。
家谷さん: 基本的には親ですね。自分で「中学受験をしたい」と言ったというより、親の中に、どこか私立中学に行かせたいという思いがあったんだと思います。
自分の小学校は、中学受験をする人が多い環境ではありませんでした。同じクラスに30人くらいいても、中学受験をするのは1人か2人くらいだったと思います。だから、周りを見て「みんな受験するから自分も」という感じではなかったです。
インタビュアー: それでも、家谷さん自身は自然と受験する流れになっていた?
家谷さん: そうですね。小さい頃からパズル教室のようなものにも通っていましたし、親としては早い段階から受験を意識していたんだと思います。
だから、自分の中でも「たぶん自分は受験するんだろうな」という感覚はありました。小学生が最初から自分だけで「中学受験をする」と決めるのは、なかなか難しいと思います。
小4から本格的に受験勉強へ
インタビュアー: 本格的な中学受験の塾には、いつ頃から通い始めたんですか?
家谷さん: 小4くらいからです。そこから受験用のカリキュラムに乗っていきました。
インタビュアー: 小4から、もう中学受験の内容をやるんですね。
家谷さん: はい。塾のカリキュラムがあって、「今週はこの単元」「今月はこの単元」という形で進んでいきます。算数なら、鶴亀算のような中学受験特有の単元も出てきます。
6年生になると、そこから志望校別の対策が入ってきます。最初は全体のカリキュラムに沿って学び、最後に学校ごとの対策をしていく流れでした。
学校とは違う世界にいる感覚
インタビュアー: 学校の勉強とはかなり違いましたか?
家谷さん: 違いました。塾に来ている子は、学校の内容はできている前提という感じです。上のクラスにいる子たちは、学校の勉強は当然できるよね、という空気がありました。
インタビュアー: 小学校では受験する子が少なかったということですが、その中で受験勉強をしている自分をどう感じていましたか?
家谷さん: 正直、少し特別感のようなものはあったと思います。小学校では周りがあまり受験をしない中で、自分は塾に行って勉強している。自分はこのまま地元の中学に行くのではなく、私立中学に行くんだ、という感覚がありました。
それに、勉強自体もそこまで嫌ではありませんでした。新しいことを学ぶのは楽しかったです。今ならゲームや遊びなど、いろいろな楽しいものを知っていますが、それを強く知る前に勉強を始めていたので、自然に受け入れていたのかもしれません。
「やらされている」だけでは続かない
インタビュアー: 行きたくない、辞めたいと思ったことはなかったですか?
家谷さん: なかったですね。親に言われて始まった部分はありますが、塾に行くこと自体がすごく嫌だったわけではありませんでした。
もちろん、親の影響は大きいです。でも、中学受験は最初のきっかけを親が作ることが多いと思います。その後、その環境の中で子どもがどう感じるかが大事なんじゃないでしょうか。
インタビュアー: 親がレールを敷くこと自体は、悪いことではない?
家谷さん: 悪いことではないと思います。小学生が全部自分で判断するのは難しいです。親が環境を作らないと始まらない部分はかなりあります。
ただ、子どもがその環境に合っているかどうかは見た方がいいと思います。自分の場合は、ある程度レールを敷いてもらって、その中で頑張る方が合っていました。
PenBridge編集部より
家谷さんの話から見えてくるのは、中学受験が「本人の意思」だけで始まるものではないということです。
小学生が、自分で学校を調べ、将来の進路を考え、受験するかどうかを決めるのは簡単ではありません。だからこそ、保護者が情報を集め、環境を整え、子どもに選択肢を見せる役割は大きいと言えます。
一方で、親が決めた道だからといって、子どもがずっと受け身のままでよいわけではありません。塾に通う中で、子どもがどのように感じているのか。勉強を苦痛に感じていないか。周囲との違いを前向きに受け止められているか。そうした変化を見守ることも大切です。
また、親子だけで学習状況を抱え込むと、どうしても感情的になったり、今何を優先すべきか分からなくなったりすることがあります。中学受験では、子どもの状況を客観的に見て、学習計画や志望校対策を一緒に整理してくれる伴走者の存在も重要になります。
中学受験は、親が用意した環境の中で、子どもが少しずつ自分の受験として引き受けていくプロセスなのかもしれません。
